デザインやコピーライティングなどをフリーランスに依頼する場合、発注者側は報酬額から所得税を源泉徴収して納付しなければなりません。今回は、源泉徴収が必要な仕事や計算式、フリーランスとの取引時の注意点などをご紹介します。受注側のフリーランス自身が源泉徴収を理解しておらず「聞いていた報酬額と支払額が違う」と問い合わせてくることもあるでしょう。発注担当者として明確に説明するためにもぜひ知っておきたい内容です。
源泉徴収制度とは
源泉徴収制度とは、「所得(給与・報酬)を得る者が納めるべき所得税を、支払者が天引きして代わりに納税する制度」のことです。源泉徴収するのは基本的に所得税ですが、2013年からは「復興特別所得税」も加わっています。
会社員の場合、給与から「源泉所得税」という名で差し引かれており、会社が従業員の税額を計算して国に納めています。企業がフリーランスに報酬を支払う場合も、基本的な流れは会社員と同じです。
例えば、仮にA社がフリーランスのBさんに外注をした場合を見てみましょう。
まず、A社はBさんが納めるべき所得税を報酬から計算し、差し引いた金額を支払います。その後、A社があらかじめ差し引いた所得税をBさんの代わりに納税するという流れです。この記事では、企業がフリーランスに外注する場合に焦点を当て、源泉徴収の基礎知識を解説していきます。
源泉徴収義務者とは
源泉徴収を行う側の企業は「源泉徴収義務者」と位置付けられており、会社だけでなく、学校・官公庁・社団・財団といった組織も含まれます。もちろん、報酬を支払う立場となった個人も該当します。
源泉徴収が必要なフリーランスの仕事の範囲
源泉徴収は、フリーランスの仕事の全てが対象になるわけではありません。では、どのような仕事を依頼すると源泉徴収しなければならないのでしょうか。
下記は、国税庁のホームページから引用した「報酬・料金等の支払を受ける者が個人の場合の源泉徴収の対象となる範囲」です。
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原稿料や講演料など
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弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
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社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
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プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
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映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
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ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
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プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
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広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
源泉徴収の対象となるフリーランスの仕事を例にあげると、ライターの原稿料、タレントのイベント出演料などが該当します。上記には記載がありませんが、デザイナーのグラフィックデザインやイラストレーターの挿絵なども対象に含まれます。具体的な内容は国税庁の「令和4年版 源泉徴収のあらまし 第五項目 報酬・料金等の源泉徴収事務」に記載されていますので、参照してみてください。
源泉徴収の計算式
源泉徴収の計算方法は支払金額に応じて変わり、復興特別所得税が加わってからは非常に細かい計算式となっています。
支払金額100万円以下の場合
支払金額 × 10.21%=源泉徴収税額
※ 10.21%の内訳…所得税額10%+復興特別所得税額0.21%
支払金額100万円超の場合
(支払金額-100万円)×20.42%+102,100円=源泉徴収税額
※ 20.42%の内訳…所得税額20%+復興特別所得税額0.42%
消費税はどう処理する?
源泉徴収の計算は、原則として消費税込みの支払金額が対象となります。
しかし請求書にて「報酬額〇〇万円、消費税額〇万円」との記載がある場合は、報酬額のみに源泉徴収の計算をしても構いません。
納付方法
フリーランスの報酬から差し引いた税金は、必要事項を記載した納付書とともに税務署に納めます。所轄の税務署の窓口以外にも、銀行・ゆうちょ銀行の窓口、ダイレクト納付(e-Tax)、コンビニ納付などで納付ができます。
源泉徴収の納付書は各種ありますが、フリーランスの報酬の場合※は「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」という名称の書類が該当し、税務署の窓口もしくは郵送で入手できます。
※例外として、弁護士や司法書士、税理士等の源泉徴収の場合は「給与所得・退職所得等の納付書」を使用します。
企業がフリーランスに依頼する場合の注意点
ここでは、発注者目線で外注フリーランスの源泉徴収に関する手続きについて特に注意するポイントをご紹介します。
フリーランスが源泉徴収を理解していない場合がある
フリーランスになりたての方の場合、源泉徴収の仕組みについてよくわかっていないケースもあります。支払額を見たフリーランスから「思っていたより少ない!」とクレームを受けるかもしれません。事前に源泉徴収について事前に説明しておきましょう。
源泉徴収が不要な仕事もある
前述したように、企業からフリーランスに外注する全ての仕事に源泉徴収がかかるわけではありません。国税庁のホームページの記載を要約すると、下記のような例では源泉徴収は不要です。
<例>
・大学教授の講演会の宿泊費を支払者が直接ホテルに支払った
・雑誌投稿への謝礼は原稿料に当たるが、1人1回5万円以下であった
・試験問題の出題や答案の採点への報酬
フリーランスへの支払調書発行は任意
フリーランスに対して源泉徴収を行っている場合は、支払調書を作成し税務署に提出する義務があります。支払調書には1月1日から12月31日までの1年間の報酬額や源泉徴収税額を記載する必要があり、提出期限は翌年の1月31日となります。
報酬を受け取るフリーランスにも支払調書の控えを発行することが慣例となっていますが、実際は任意とされており、法的な定めはありません。
源泉徴収を忘れたら
企業側は、源泉徴収義務者として報酬を支払った翌月10日までに納税しなければなりませんが、従業員が常に10人未満の場合は事前申請により半年に一度の納付が可能です。
納税の延滞のペナルティは、所得を得たフリーランス自身ではなく源泉徴収をする義務のある企業側が負うことになります。
請求書管理にはシステムの導入を
フリーランスから受け取った請求書に源泉徴収額の記載がなくても、説明をした上で確実に源泉徴収を行いましょう。源泉徴収額の記載欄のある請求書フォーマットを共有しておくと、誤解を避けられます。
さらに、フリーランスへの外注業務を効率化する「フリーランスマネジメントシステム(以下、FMS)」を導入すれば、正しい税額を表記した請求書フォーマットを自動で作成できます。
源泉徴収も自動計算
源泉徴収の計算は支払金額に応じて変わります。加えて、所得税に復興特別所得税額が加わって複雑化していたり後から消費税を加える必要があったりと、計算間違いがおきやすい数式を扱わなければなりません。
FMSで発行する請求書は源泉徴収額の計算も自動化できるので、人的ミスを回避できて経理作業の効率化にもつながるでしょう。
インボイス制度などの新たな税法にも対応
2019年の消費税改正時には8%または10%という複数税率が採用され、さらに2023年10月1日からはインボイス制度という新たな税制度が始まります。
発注者はこういった法改正に随時対応していかなければなりませんが、FMSを活用すれば請求書フォーマットも随時更新されるため安心して請求書発行を行えるでしょう。
まとめ
企業からフリーランスへの報酬の支払いがある場合、所得税を源泉徴収して納税をすることは企業の義務となります。ほとんどの業務が源泉徴収の対象ですが、まれに非対象になることもあるため注意が必要です。
源泉徴収の計算は非常に複雑で、計算ミスの温床となりがちです。発注企業側がシステムを導入して請求書フォーマットを用意することでフリーランスの負荷軽減にもつながるため、検討することをおすすめします。
源泉徴収の正しいルールを知り、源泉徴収義務者として納税の抜けモレがないようにしていきましょう。