インボイス制度導入間近!一人親方がやるべき対応方法とは

インボイス制度導入間近!一人親方がやるべき対応方法とは

2023年10月1日からインボイス制度がスタートします。インボイス制度はすべての事業者に影響を与える制度ですが、特に課税売上高1,000万円以下で免税事業者として事業を行っている一人親方が受ける影響は甚大です。

 

制度導入後は、インボイスを発行することができるインボイス発行事業者にならなければ、これまでの取引先から取引や報酬を減らされる可能性があります。かといってインボイス発行事業者になれば、税負担や事務作業が増加してしまいます。

 

どちらを選んでも影響が大きいため、インボイス発行事業者になるのか、ならないのかについては事業や取引先の状況を見極めたうえで慎重に選択をしましょう。制度導入まで1年を切りはしましたが、実は制度開始後6年間は経過措置があります。何も知らずに登録してしまう前に、インボイス制度に対して知っておくべきことと、一人親方がやっておくべきインボイス制度への対応方法をまとめました。

インボイス制度とは

インボイス制度は、消費税と深い関わりがあります。消費税に軽減税率が導入され、8%と10%という複数税率になったことを受け、消費税率や消費税額を明確にして適切な納税を実現するために生まれた制度であるためです。

 

インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」で、所定の条件を満たしたインボイス(適格請求書)を発行・保存しないと消費税の仕入税額控除の適用が受けられなくなるというものです。

 

もともと消費税の納税を免除されている免税事業者にとっては、税額控除とは関係がないように思えるかもしれませんが、そうではありません。仕入税額控除の仕組み、インボイス制度の導入でその仕組みがどう変わるのか、免税事業者がなぜ影響を受けるのか、例をもとにして解説します。

二重課税を防ぐ仕入税額控除

例えば、一人親方が仕入先から材料を5,500円(うち500円が消費税)で購入して商品をつくり、取引先の小売業者に1万1,000円(うち1,000円が消費税)で売ったとします。その商品を小売業者が1万6,500円(うち1,500円が消費税)で消費者に売ったケースについて考えていきましょう。この例では、一人親方は免税事業者で、小売業者は課税事業者だと仮定します。

 

小売業者は1万6,500円を売り上げましたので、売上税額は1,500円です。ただし、小売業者は商品を一人親方から仕入れる際に、すでに1,000円を消費税として払っています。消費税が二重に課税されてしまわないよう、小売業者は売上税額の1,500円から仕入税額の1,000円を差し引いて500円を納付すればよいというのが、仕入税額控除です。

 

資本金が1,000万円未満で、基準期間もしくは特定期間の課税売上高(消費税が課される取引の売上高のこと)が1,000万円以下であるなどの一定の要件を満たしている事業者は、免税事業者として消費税の納付を免除されます。そのため、この例では課税事業者である小売事業者は消費税として500円を納付し、免税事業者である一人親方は小売業者との取引で発生した1,000円の消費税を益税としてそのまま利益扱いで受け取ることができます。

インボイス制度で仕入税額控除の仕組みはこう変わる

これまでは、課税事業者は帳簿や請求書などを保存していれば仕入税額控除を受けることができました。しかし、インボイス制度導入後は適格請求書であるインボイスを保存していないと仕入税額控除を受けることができなくなってしまいます。

 

インボイスを発行することができるのは、事前にインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録を受けている事業者だけとなります。さらに、インボイス発行事業者になるためには、課税事業者でなくてはなりません。

 

先ほどの例でいうと、免税事業者である一人親方が消費税を納付しなくてよいこと、小売業者との取引で発生した1,000円の消費税を益税として受け取れるということは、インボイス制度導入後も変わりはありません。問題となるのは、免税事業者である一人親方は、小売業者に対してインボイスを発行することができないという点です。

 

一人親方からインボイスを発行してもらえないため、小売業者は仕入税額控除が受けられません。つまり、インボイス制度の導入前は消費税として500円を納付すればよかった小売業者が、制度導入後は1,500円*を納付しなくてはならなくなるのです。

*経過措置あり。詳しくは後述

インボイス制度が免税事業者にも大きな影響を与えるワケ

インボイス制度の導入によって、免税事業者自体に消費税の納付が課されたり、益税が受け取れなくなったりなどの直接的な変化が起こるわけではありません。しかし、免税事業者であり続けることで、課税事業者である取引先には「余分な消費税を支払わなくてはならない」「二重課税される」という負担をかけることになります。

 

取引の規模や額が大きいほど、仕入税額控除が受けられないことで取引先の課税事業者が負担する支出は大きいものになります。「そちらは益税も受け取っているのに」という厳しい目を向けられることもあるでしょう。課税事業者との取引がある限り、インボイス制度は一人親方や免税事業者にも大きな影響が出るのです。

インボイス制度に対応しないと仕事や報酬が減る?

では、インボイス制度に対応しなかった場合には、具体的にどのような影響が出ることが考えられるのでしょうか。

 

まず、これまで取引があった課税事業者から取引を減らされる可能性があります。特に多くの取引先を抱える大企業であれば、インボイス制度に対応していない免税事業者にわざわざ発注して、仕入税額控除を受けられない分の支出を増やす必要性は薄いといえるでしょう。さらに、請求書の処理を簡易化するためにも、取引先にインボイス制度に対応している事業者としていない事業者を混在させるのを回避することも考えられます。

 

取引を継続できる場合も安泰ではありません。経過措置の終了とともに取引を減らされてしまう可能性もありますし、消費税額の分だけ報酬を減らすよう実質的な値下げ交渉をされることも十分あり得ます。新規の取引先を開拓する場合も、相手が課税事業者であればインボイス制度に対応していないというのはネックになってしまうでしょう。

インボイス制度に対応した場合も減収するってなぜ?

インボイス制度に対応をすると、現在の取引をそのまま継続できる可能性が高いだけでなく、新規取引や新規顧客の獲得にも有利になると考えられます。仕入税額控除を受けられるよう、課税事業者がインボイスを発行できるインボイス発行事業者を優先的に取引先に選ぶことが予想されるからです。

 

しかし、メリットばかりではありません。インボイスを発行するためには課税事業者にならなくてはならないため、これまでは益税として受け取れていた消費税の一部または全額を納付しなくてはならないためです。つまり、売上は同じでも、消費税の納付分だけ手元に残るお金は少なくなってしまいます。

 

では、どれくらいの金額を納付することになるのでしょうか。最初に出した例を思い出してみてください。例では、一人親方は仕入先から材料を5,500円(うち500円が消費税)で購入して商品をつくり、取引先の小売業者に1万1,000円(うち1,000円が消費税)で売っていました。

 

この一人親方が課税事業者になった場合、売上の10%である1,000円をそのまま納付しなくてはいけないわけではありません。売上税額である1,000円から仕入税額の500円を引いた500円を納付することになります。ただし、材料を購入した仕入先が免税事業者である場合は、仕入税額控除を受けられないため1,000円を納付しなくてはならないのです。

また、帳簿付け、領収書の保存、税額計算、消費税申告、新制度に合わせた請求書の作成など事務作業の負担も増えることになります。

インボイス制度導入で一人親方がするべき対応方法

インボイス制度導入にあたって一人親方がするべき対応方法は、現在の状況やインボイス制度に対応するのか・しないのかによって異なります。

 

現在、すでに課税事業者であるという一人親方は、納税の所轄税務署長に登録申請書を提出してインボイス発行事業者の登録を受ければ、インボイスを発行できるようになります。インボイス制度に対応することで事務作業の負担は増えますが、課税事業者はもともと益税の享受を受けずに消費税の申告や納付も行ってきているため、そこまで大きく負担増にはならないでしょう。

免税事業者のままでいるか課税事業者になるか

現在は免税事業者であるという一人親方の場合は、免税事業者のままでいる(インボイス制度に対応しない)のか、課税事業者になる(インボイス制度に対応する)のかを決めなくてはなりません。どちらを選ぶのかを決める際には、下記の2つのポイントについて考慮してください。

 

・現在の事業者の状況
・取引先(売上先)の状況と意向

 

現在の事業者の状況というのは、一人親方の年間課税売上高や引退までの想定期間などのことです。年間の課税売上高が1,000万円突破間近なのであれば、早かれ遅かれ課税事業者になる可能性は高いといえます。そうであれば、今から課税事業者となってインボイス制度の開始とともにインボイス発行事業者になることを検討するとよいと考えられます。

逆に、経過措置があるここ数年のうちに引退を考えているのであれば、免税事業者のままでいくという選択肢もあり得るでしょう。

 

そして、免税事業者のままでいるのか、課税事業者になるのかを決める際にもっとも重要なのが取引先の状況と意向です。インボイス制度に対応しなければ仕事や報酬が減る可能性があると前述しましたが、取引先の状況によってはインボイス制度に対応する必要がない場合もあります。

 

例えば、取引をしている売上先が免税事業者である場合、もしくは課税事業者であっても簡易課税制度*を選択している場合はインボイスは不要です。また、売上先が消費者である場合もインボイスは不要となります。

*後述の「課税事業者になる場合2」で説明します

資金繰りを見直しておく

免税事業者のままでいるにしろ、課税事業者になるにしろ、必要になるのが資金繰りの見直しです。前述した通り、どちらにしろ減収する可能性があります。大きな設備投資はいったん保留にして様子を見るなど、一時的に今より減収する前提で見直しをはかることが必要です。

免税事業者のままでいる場合1 経過措置を活用する

インボイス制度の導入は2023年10月1日から始まりますが、現段階では、導入後6年間は状況の激変を防ぐために仕入税額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。最初の3年間、2026年9月30日までは免税事業者から課税仕入れをした場合に、仕入税額相当額の80%の控除が可能です。次の3年間、2029年9月30日までは仕入税額相当額の50%が控除できます。

 

なお、この経過措置による控除が適用されるためには、免税事業者などから受領する区分記載請求書などと同様の事項が記載されている請求書などの保存と、80%控除・50%控除の特例を受ける課税仕入れであることを記載した帳簿の保存が必要です。

 

最初の3年間は特に仕入税額相当額の80%が控除されるので、インボイス制度に対応していないからといって即座に取引を中止されるような事態は起こりにくいと考えられます。免税事業者のままでいることを選んだ場合でも、この経過措置期間中に状況などを見ながら「課税事業者になってインボイス制度に対応するのか」を再度考えることができるのです。

免税事業者のままでいる場合2 登録はあくまで任意

インボイス発行事業者の登録は、こちらも経過措置として2023年10月1日から2029年9月30日までは、登録日から課税事業者になることができます。原則として、免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受けるには、まず「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者にならなくてはいけないのですが、この期間中は届出書を提出しなくても登録が可能です。

 

インボイス発行事業者の登録を受けるかどうかは任意です。加えて、上記したようにインボイス制度の開始後も期の途中で登録することができる経過措置があるので、決断に迷いがあるという人はあわてて結論を出さなくても大丈夫だと覚えておきましょう。

課税事業者になる場合1 インボイス制度対応の請求書フォーマットを準備する

インボイス制度導入後、インボイス発行事業者はインボイスと呼ばれる特定の要件を満たした請求書を発行することになります。

 

インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号、適用税率、税率ごとに区分した消費税額など、制度導入前よりも記載事項が増えていますので、新制度に沿った請求書フォーマットを準備しておくことが必要です。また、インボイス制度に対応した請求書の書き方を覚えておくと、制度開始後にスムーズにインボイスを発行することができます。

課税事業者になる場合2 簡易課税制度を検討する

インボイス制度に対応はするけれど事務作業の負担が重い……という場合には、ひとつずつの取引にかかる消費税額を計算するのではなく、みなし仕入れ率を適用して税額を計算できる簡易課税制度の導入を検討しましょう。これは中小事業者の納税事務負担に配慮してできた制度です。

 

納付する消費税額は、「売上の消費税額」から「仕入・経費にかかった消費税額」を差し引いて計算します。本来ならば、一つひとつの取引ごとに、仕入先からの請求書から実際に払った仕入・経費の消費税額を計算しなくてはなりません。

 

ところが、簡易課税制度を使えば、売上の消費税額にみなし仕入率というものをかけるだけで仕入・経費にかかった消費税額を算出することができるのです。みなし仕入率は事業区分に応じて決められており、建設業は70%です。簡易課税制度は、基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下である場合に利用できます。

 

例えば売上税額が1,000円でみなし仕入れ率が70%の場合、1,000×0.7で仕入税額は700円です。つまり、売上税額1,000円から仕入税額700円を差し引いて300円を納付すればいいということになります。簡易課税制度を導入するには、納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。

 

簡易課税制度では、消費税額の実額を計算したり、インボイスを保存したりする必要はありません。逆から見れば、仕入をしている事業者がインボイスに対応していない免税事業者であっても、簡易課税制度を利用すれば仕入税額控除が受けられるということです。

課税事業者になる場合3 インボイス制度の支援措置を受ける

インボイス制度に対応する事業者にはさまざまな支援措置がありますので、積極的に活用をしてください。例えば、免税事業者から課税事業者になる事業者でいくつかの要件を満たす場合、2026年9月30日を含む課税期間まで、納税額が売上税額の2割に軽減されます。

 

すでに課税事業者である場合にも適用される支援措置もあります。例えば、中小企業・小規模事業者などを対象にしたIT導入補助金(デジタル化基盤導入類型)において、ITツールの下限額が撤廃されました。これによって安価な会計ソフトも補助金の対象となりましたので、適宜活用をしていきましょう。

まとめ

インボイス制度は一人親方、特に現在は免税事業者であるという一人親方に大きな影響が生じる制度です。

正しい状況を知り、免税事業者のままでいくのか、課税事業者になってインボイス制度に対応するのかを決めなくてはなりません。現在の状況や売上先である取引先の意見や状況を踏まえて、適切な判断を行いましょう。

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