IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等を対象にITツールの導入を金銭的に支援する制度です。大きく分けて4種類の申請枠があり、自社の課題に沿ってニーズに合うITツールを選択し、補助を受けることができます。
本記事では、IT導入補助金の概要の他、具体的な対象ツールと申請方法を簡単に解説していきます。
IT導入補助金とは
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者等を対象として、ITツールの導入経費の一部が補助される制度です。
対象となるのは、業務の効率化や生産性の向上をサポートするITツールです。生産や販売、顧客、業務を管理するシステムの他、経理会計や決済を行うソフトなど、幅広い選択肢が用意されており、各事業者の業種や特色に合わせて選ぶことができます。
補助額は最大450万円。業務のIT化を検討している企業は、ぜひ活用したい補助金です。
IT導入補助金の種類
IT導入補助金は、補助額や補助対象などに応じて「通常枠(A類型・B類型)」「セキュリティ対策推進枠」「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)」「デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)」の4種類に分けられています。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
通常枠(A類型・B類型)
業務の効率化や生産性の向上を目指してITツールを導入する企業を支援する申請枠です。業務プロセスの数や賃上げ目標などに応じて、A類型とB類型の2種類があります。
様々な業種・組織形態に対応しており、各事業者の課題に沿ったITツールを導入できるのが特徴です。
補助されるのは、導入費用の1/2以内、最大450万円です。
セキュリティ対策推進枠
サイバーインシデントによって事業継続が阻害されるリスクを軽減するため、企業のサイバーセキュリティ対策強化を支援します。2022年8月から公募が開始された、比較的新しい申請枠です。
補助対象は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているITツールで、補助率は1/2以内、補助額は最大100万円です。
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)
インボイス制度への対応も見据えた、企業間取引のデジタル化の推進を目指した申請枠です。「通常枠」よりも補助率が高く、優先的な支援が検討されています。
補助対象が、会計・受発注・決済・EC業務に関連するITツールに限定されていることに注意が必要です。また、ソフトウェアやクラウドサービスだけでなく、各業務に使用するPC・タブレット・レジ・券売機といったハードウェアをソフトウェアやクラウドサービスと同時に購入する場合には、その経費の一部も補助されます。
補助率は3/4から1/2以内、補助額は最大350万円です(ハードウェア購入費は別途)。
デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)
複数の中小企業・小規模事業者が連携してITツールを導入することで、DX化を実現させるための申請枠です。地域一帯のIT化を目指せることから、「通常枠」よりも補助率が高く設定されています。
複数社連携にあたって必要となったコーディネート費や、外部専門家への謝金も補助の対象となります。
経費の3/4から1/2以内、最大3,000万円(加えて事務費・専門家費は最大200万円)が補助されます。
IT導入補助金2023の変更点
毎年、いくつかの要件に変更があるIT導入補助金。前年度の要綱を参考にして準備をしていたという方もいるかもしれませんが、2023年度もわずかながら要件の変更が施されました。
補助対象期間の延長やITツール下限額の引き下げ・撤廃により、より多くの選択肢が検討できるようになったため、社内のニーズに合ったITツールを改めて探してみるのがおすすめです。
2022年版から2023年版への変更点は、以下の通りです。
通常枠(A・B類型)の変更点
・クラウド利用料の補助対象期間が、最大2年に延長
・A類型の下限額を5万円に引き下げ(より安価なツールも補助の対象に)
デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)の変更点
・会計、受発注に関わるソフトウェア等に設定されていた下限額が撤廃(より安価なツール等も補助の対象に)
IT導入補助金の対象事業者
IT導入補助金を申請できる事業者は、以下の通りです。出資額や発行済みの株式が多い事業者、法令違反歴がある事業者は、申請できません。
中小企業
製造、運輸、卸・小売、ソフトウェア、旅館等のサービス業を営む会社・個人の他、医療や保育、教育等に携わる法人も対象となります。
業種に応じて資本金の額・出資の総額や従業員の数などに上限が設けられているため、申請を検討している場合は要件を満たしているかどうか確認しましょう。
小規模事業者
下記に該当する事業者が対象となります。
1.従業員が5人以下の商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く)事業者
2.従業員が20人以下の宿泊業・娯楽業事業者
3.従業員が20人以下の製造業その他の事業者
対象外の事業者
補助金の申請ができない事業者の一例として、大企業との関連度合いが高い、いわゆる「みなし大企業」が挙げられます。
・ 発行済株式の総数又は出資価格の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有している中小企業・小規模事業者等
・発行済株式の総数又は出資価格の総額の3分の2以上を大企業が所有している中小企業・小規模事業者等
・ 大企業の役員又は職員を兼ねている者が、役員総数の2分の1以上を占めている中小企業・小規模事業者等
また、経済産業省又は中小機構から補助金等指定停止措置や指名停止措置を受けていたり、風営法に規定される事業を営んでいたりする事業者や、過去1年間の間に労働関係法令違反歴がある事業者なども対象外となります。
IT導入補助金の対象ツールリスト
IT導入補助金の対象となっているITツールには、どのようなものがあるのでしょうか。
2023年度版の対象ツールは現時点で公表されていませんが、準備段階では2022年度版の情報を参考にするとよいでしょう。IT導入補助金2022 IT導入支援事業者・ITツール検索では、取り扱い業種、プロセスや機能に応じて、各事業者のニーズに合ったITツールを検索することが可能です。
各業務における代表的なITツールは、以下の通りです。
顧客管理・営業支援
salesforce
【通常枠】
1.顧客対応・販売支援
salesforceは営業データを集約して、コスト削減と業務の効率化を実現するツールです。日々の商談管理から、AIによる売上予測までカバーしており、業務の自動化とデータ活用を推進するのにおすすめです。
Zoho CRM
【通常枠】
1.顧客対応・販売支援
Zoho CRMは顧客管理を一元化し、業務効率と売り上げの最大化を実現するツールです。顧客データをそれに関連する活動と紐付けて記録、管理するだけでなく、営業活動を効率化する機能や顧客に対するマーケティングアプローチ結果を自動で記録するマーケティングオートメーション機能も装備しています。
会計
freee会計
【通常枠】
2. 決済・債権債務・資金回収
4. 会計・財務・経営 等
【デジタル化基盤導入枠】
会計・受発注
freee会計は、経理に関わるあらゆる業務をオールインワンで効率化するツールです。自動で作成されるレポートは、経営改善の参考にすることもできます。クラウドタイプで、テレワークにも対応しています。
マネーフォワードクラウド会計
【通常枠】
2. 決済・債権債務・資金回収
4. 会計・財務・経営
5. 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス 等
【デジタル化基盤導入枠】
会計・受発注
マネーフォワードクラウド会計は取引に関わる毎日の面倒な入力作業を自動化することができるツールです。銀行・クレジットカードをはじめとした様々なサービスとの連携、AIによる学習機能により、自動入力・自動仕訳が実現します。
請求書・経費・勤怠・給与のサービスと併用すれば、バックオフィス業務をまとめて効率化することができます。
コミュニケーション
Zoom
【通常枠】
7.汎用・自動化・分析ツール
Zoomはあらゆるデバイスで使用できる、ビデオコミュニケーションツールです。ビデオ会議だけでなく、Webセミナーの開催も可能で、社内外のコミュニケーションの円滑化に役立ちます。
Chatwork
【通常枠】
7.汎用・自動化・分析ツール
Chatworkは社内外で活用できるグループチャットツールです。チャットのみならず、タスク管理やファイル管理、ビデオ通話も行うことができ、遠隔でのコミュニケーションもスムーズに行うことができます。
人事労務
Jinger人事労務
【通常枠】
5. 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス
Jinger人事労務は労務手続きや年末調整、雇用契約などをペーパーレス化し、社内の人事情報を一元管理するツールです。
集約したデータベースは、人員配置や育成計画、モチベーション管理といった組織開発にも役立てることができます。また、勤怠や給与計算のサービスとも連携可能となっています。
ジョブカン
【通常枠】
5. 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス
ジョブカンはあらゆる勤務形態に対応している勤怠管理ツールです。誰でもシンプルに操作できるため、導入もスムーズです。ペーパーレス化で人的なミスを防ぎ、面倒なシフト作成も簡単に行うことができます。
IT導入補助金の申請方法
IT導入補助金を実際に申請する場合、どのような手順で進めるのがよいでしょうか。本項では、IT導入補助金を申請する流れについて説明していきます。
ITツールの選定
まずは、事業者に合ったITツールを選択するところから始めましょう。補助金が利用できるといっても、全額補助ではありません。
事業者にとって有用でないツールを導入した場合は、投資費用を回収できない可能性もあります。費用対効果を見極めながら、最もニーズが高い分野のツールを導入することをおすすめします。
交付申請
選択したITツールと、そのツールを取り扱っているIT導入支援事業者を選び、交付申請に進みます。
交付申請では、「gBizIDプライム」と「SECURITY ACTION」のそれぞれでアカウント登録が必要です。「gBizIDプライム」 は、補助金の申請に必要な法人代表者や個人事業主のアカウントで、発行までに2~3週間を要します。
「SECURITY ACTION」は、中小企業自らが情報セキュリティ対策に取組むことを宣言する制度です。
申請の際に慌てることのないように、予め説明に目を通し、必要書類等を準備しておきましょう。
ITツールの契約
交付決定後、選択したITツールの契約を行います。ITツールは、導入してからこそが本番です。業務の効率化に活用するためには、事業者のニーズとITツールの強みを常にすり合わせながら、日々工夫を重ねていく必要があります。
IT導入支援事業者と連携しながら、ITツールの効果を最大化するために取り組んでいきましょう。
事業実績報告
補助事業完了後は、実施した内容を報告する必要があります。この報告は補助事業者が開始・提出しますが、作成自体はIT導入支援事業者との共同となります。
事業実績報告には、ITツールの契約・発注、納品、支払いまでが完了していることを証明する書類が必要です。各証憑は破棄せずに保管しておきましょう。
交付手続き
事業実績報告に基づいて、事業の実施や経費の支出が適正であったかを検査されます。
検査の結果、補助事業が適切に実施されたと認定されれば、補助金額が確定後約1か月で補助金の交付となります。
まとめ
費用面のハードルが高く、ITツールの導入を躊躇している事業者も多いでしょう。そんな事業者こそ、IT導入補助金を活用し、最小限の負担で業務の効率化を進めていくのがおすすめです。
IT導入補助金は対象となるツールの種類が豊富で、あらゆる業種に対応したものが揃っているため、個社のニーズに合った製品がきっと見つかります。