電子帳簿保存法は機能する?やらないとどうなる?日本のFAX文化から電子帳簿保存法の未来を考える

電子帳簿保存法は機能する?やらないとどうなる?日本のFAX文化から電子帳簿保存法の未来を考える

2022年1月、「電子帳簿保存法」が改正されました。中でも注目を浴びているのは、「電子取引における電子保存の義務化」です。

“紙文化の国”“変化を嫌う国”と言われることも多い日本ですが、この法改正に則ってやらないとどうなるのでしょうか?

この記事では「地方自治体でこの法改正は機能するのか」「どんな対応をしていくのか」「FAXは電子取引なのか」など、日本の地方自治体における業務の将来を考えていきます。

そもそも電子帳簿保存法とは?

まず、電子帳簿保存法について振り返ります。この法律はWindows98が発売された1998年にスタートしました。世の中にインターネットが少しずつ普及した頃から始まった、20年以上歴史のある法律です。内容は、大きく3つのルールで構成されています。

 

(1)電子取引の保存……Eメール、オンラインシステム(いわゆるEDI取引)、データ共有サイト、データ記録用媒体などで送付した書類、受領した書類は、電子データで保存する

(2)電子帳簿・電子書類の保存……会計ソフトなどで電子的に作成された書類は、一定の条件を満たした上で電子データのまま保存する

(3)スキャナ保存……紙でやり取りした書類をスキャナで読み込み、電子的に保存する

 

この3つのルールは、インターネットの技術発達に応じ、これまで数回にわたって法改正されてきました。そして、今回の変更点は大きく分けて2つ。「電子取引データの電子保存の義務化」と「事前承認申請やタイムスタンプの要件緩和」です。

何が義務化となるのか?

先にあげた3つのルールのうち、電子保存が義務化されたのは(1)の電子取引における書類データです。Eメールやオンラインサービスなど、電子的にやり取りした書類は、送付側・受領側ともに電子データで保存することが必須となりました。

2年の猶予が決定

法改正目前の2021年12月、「電子引データの電子保存の義務化」には、2022年1月1日~2023年12月31日を猶予期間が設けられました。この期間に限っては、電子取引したデータでも紙での保存が許されたということになります。

しかし、あくまで猶予期間が与えられたたけであり、2024年からは全ての事業者へ義務付けられます。もちろん、地方自治体もその対象です。

何が要件緩和されたのか?

法改正では義務化項目だけでなく、要件緩和も決定されました。それが以下の2つです。

 

(1)事前申請が不要に
これまでは、書類の電子保存とスキャナ保存を行う際、所轄税務署への事前承認申請が必要でした。それが今回から不要になりました。

 

(2)タイムスタンプ規定が変更
電子データの改ざんや不正を防止するタイムスタンプ。付与された時点でデータが存在していたことや、付与後にデータ内容が変更されていないことを証明する大切な機能です。

 

こちらでまず、タイムスタンプ付与の日時が、書類受領後「3日以内」から「最長2ヶ月経過後、おおよそ7営業日以内」へと変更になりました。そして、スキャナ保存の際に必須だった受領側の自著が不要になっています。

 

電子引データの電子保存の義務化が進む分、こうしたルールが緩和されることで、電子保存がスムーズに行えそうです。ただし、しっかり保存規定を守ることが前提です。

どんなものが電子取引に当たる?

次に、電子取引について考えていきましょう。書類の電子取引が行われる代表的なものとして、以下が挙げられます。

 

■データ共有のクラウドサービス
■取引先と一緒に利用しているクラウドシステム
■備品を買うネットショッピングサイト など
■Eメール
※Eメールの本文に取引情報が書かれている場合は、メールそのものの保存も必須。

 

つまり、オンラインでやり取りしている全般が電子取引となります。いつも何気なく使用しているかも知れませんが、こういった電子ツールをくまなく確認しましょう。

「電子データでも紙でも保存」はNGか?

「電子データ保存の他に、同じデータを紙でも保存したいが、紙保存は絶対にダメなのか?」もしかすると、そんな疑問を持つ人もいるかもしれません。

 

「電子引データの電子保存の義務化」の主旨は、「電子データで保存しなければならない」ということ。つまり、「紙で保存することを禁止」しているものではないといえます。電子データでの保存を間違いなく行っていれば、同じデータを別途紙で保存することは問題ありません。

FAXは紙取引か、電子取引か?

日本では、現在でもFAXでやり取りする事業者・地方自治体も少なくないでしょう。結論から述べると、FAXでのやり取りは “機器タイプ”によって、紙取引か電子取引かという“取引タイプ”が決まります

“機器タイプ”とは?

それでは、“機器タイプ”についてご紹介します。

 

(1)紙を読み取って送受信……紙取引
(2)電子データを読み取って送受信……電子取引

 

(1)は、紙で存在している書類を機器で読み取って相手に送信したり、受信したデータを紙出力したりするタイプです。こちらは紙取引であり、電子データ保存の必要はありません。

 

一方、問題は(2)です。こちらは、最近多く見られる「ペーパーレスFAX機能」を備えた複合機のタイプです。こういったFAXでは、パソコンから複合機にデータを送り、その電子データを相手に送信することが可能。また相手から送られてきたデータも、紙出力せずにイメージファイルとして受信できます。そのためこちらは電子取引とみなされ、電子保存が必須となります。

送信者と受信者で“機器タイプ”が異なる場合は?

ここで浮かんでくる疑問は、送信者と受信者で機器タイプが違うときの対応ではないでしょうか?

「送信するこちら側は紙をスキャンし、受信するあちら側がペーパーレスFAX機能で受け取る」というパターンや、その反対もありえるでしょう。こういったケースでは、“自身の機器タイプがどちらか”で取引のタイプが決まります。

 

(1)送信側の取引のタイプ
■紙をスキャンして送信するFAX……紙取引
■電子データで送信するFAX……電子取引

 

(2)受信者の取引のタイプ
■紙で出力して受信するFAX……紙取引
■電子データで受信するFAX……電子取引

 

決め手は、「自身のFAX送受信方法がどちらのタイプか」ということです。同じ書類を、相手がどう送受信しているかは問いません。このように考えればシンプルですね。

地方自治体でペーパーレス化は進むのか?

こうした電子帳簿保存法改正の他、2019年にはデジタル庁も開設され、近年では国を挙げて業務のデジタル化をはかる動きが起きています。しかし実態はどうなのでしょうか?

コロナ禍で続いたハンコ当庁

2020年10月に行われたとある調査では、稟議・承認業務が紙中心だと答える地方自治体職員が6割近くいたという結果が出ています。当時は、コロナ禍の真っただ中。しかし紙文化・ハンコ文化は根強く残り、当庁しなければならなかった職員も多いようです。

 

同じくコロナ禍の中で、デジタル庁もその実態は紙文化であることが話題になりました。民間企業がどんどんDX化を進める中で、こうした官公庁や公的機関は後れを取る形になってしまったといえます。

参考:ワークフロー総研

一方で電子契約は急速拡大

しかし近年、地方自治体の電子契約の導入が急速に進んでいるといいます。電子契約とは、電子文書データに電子印鑑での捺印・電子サインを行うことで、契約を取り交わすことです。

 

これには、2021年の地方自治法と地方自治法施行規則の改正が関係しています。これまで地方自治体の電子契約には、一定の要件を満たした「電子証明書」の送信が義務付けられていました。しかし法改正で、それが不要になっています。

取引する際に必要とされていた「電子証明書」が不要となったことで契約の際の1つの手間が削減され、民間企業と地方自治体との取引が行いやすくなったとも言えるでしょう。

 

2020年は上記のような実態があったようですが、翌年の法改正によって少しずつペーパーレス化が進んでいると見られます。

この先ペーパーレス化は機能するのか?

今回の電子帳簿保存法改正で、書類のデジタル化はさらに求められることになりました。

 

地方自治体では、このままペーパーレス化が進んでいくかもしれません。しかし紙文化・ハンコ文化から移行しようとしない自治体や、法改正の情報共有がうまくいかない自治体が出てくれば、各地域の公務の在り方に差が出てきてしまうでしょう。

地方自治体が注意すべきことは?

電子帳簿保存法の改正を受け、地方自治体はどう対応すれば良いでしょうか?この点について詳しく考えていきます。

要件を満たした保存方法へ

今回義務化された「電子引データの電子保存」には、2つの保存要件があります。

 

(1)真実性の確保

書類データの改ざんを防ぐため、以下のいずれかを行うことが必須とされています。

 

(A)タイムスタンプが付与された後に、取引情報を送信・受領する
(B)取引情報を送信・受領した後すみやかにタイムスタンプを付与し、情報の保存者を明確にする
(C)情報の訂正・削除を行う際に確認できるシステム、または情報の訂正・削除が不可能なシステムを使って取引情報をやり取りする
(D)事務処理におけるルール(訂正・削除の防止を定めるもの)をきちんと決め、それに則って処理を行う
※(D)に関しての処理規定は、国税庁HPで詳しくチェックしてください。

 

不正や不備を防ぐためのルールですが、こうした規定を守った上で、タイムスタンプの規定が緩和されたとも言えます。

 

(2)可視性の確保

該当の書類データをPCなどのデジタル上で検索してすぐに見つけられるよう、整理・管理するというルールが「可視性の確保」です。こちらは検索要件とも呼ばれています。ここで最低限必要となる情報が、「日付」「取引先名」「取引金額」の3つで、該当データを見たときにこの3つが明瞭になっていることが大切です。管理方法としては、以下の3点が考えられます。

 

(A)ファイル名に「日付」「取引先名」「取引金額」を入れる
(B)日付ごと、取引先ごとなどでフォルダ分けする
(C)Excelなどのスプレッドシートで、「日付」「取引先名」「取引金額」で該当データを検索できる表を別途作成する

 

また、解像度も可視性確保のカギです。書類をすぐに出せても、内容を読めなければ意味がありません。デジタル上で書類データを開いたときに文章が明瞭に読めるよう、最低限の解像度は保っておきましょう。

データ管理と業務フローも見直しを

紙が主流だった地方自治体では、電子データ保存環境が整っていないところも多いかもしれません。これからのために、データ管理方法を見直すべきでしょう。容量や耐性、セキュリティも確認し、必要に応じて導入・変更を進める必要があるといえます。

加えて、電子取引や電子保存を日頃スムーズに行えるよう、現場での業務フローも変えていく必要があるかもしれません。

 

さらにこうした見直しの中で、適切な会計システムやクラウドシステムを導入することで、スムーズな書類作成・取引・保存を行えるようになるでしょう。

まとめ

今回は、電子帳簿保存法改正にあたり「地方自治体でこの法改正やペーパーレス化は機能するのか」「進めなければ地方自治体の将来はどうなるのか」といった点について考えた上で、行うべき対応についてご紹介しました。

2年の猶予をしっかり有効活用していきたいですね。

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